エントリー作品一覧
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2020年7月1日(水)~8月31日(月)の期間に公募を行った結果、○○件のご応募がありました。一般投票と審査結果によって選出された動画には表彰等ございますので、個社ページよりご投票をお願いいたします。
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静岡商工会議所 Sing 今月のコラム
Sing2024年3月号

トレンド通信
「2024年問題と2025年問題、ピンチをチャンスに変えられるか」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
「この渡り廊下はわざと雪や落ち葉が舞い込むようにつくってあります」。長野県須坂市にある“日本一予約が取れない宿”として知られる仙仁(せに)温泉・岩の湯の金井辰巳社長に、現地でお話を聞く機会がありました。山間のありふれた温泉宿だったこの場所を三十数年かけて現在の姿につくり替えたストーリーは、驚きの連続でした。
まず、この宿には自前のウェブサイトがありません。宿泊業界では常識であるネットを通じた予約受け付けや情報提供はしていません。一部の旅行サイトにキャンセルが出た際の空室状況の情報が出ているようですが、そちらを見ると2024年の予約は年末まで1日も空きがありません。宿泊客のほとんどがまた翌年以降の予約を入れるそうです。クリスマスや年末年始は休業です。
宿は渓流に面した深い森の中にあります。金井社長によると、窓から見える木々は全て自身で種類や枝ぶりから配置を決めて、お客さんが見たい景色をつくり育てているそうです。客室は18あり、食堂も18、温泉の浴槽も大小合わせて現在18あります。どれも全てが違うコンセプトで形や温度、設備を変えています。
先代が経営していた昭和の時代はどの地域の温泉宿にもあるように、団体客をメインにしたサービスを提供していました。交通の便も良くない上、特に知られた観光地に近いわけでもないこの宿の生き残り策を必死で考えたと金井社長は言います。「山間の小さな一軒家」にしかできないことは何なのか。わざわざこの宿を選んでくれるお客さんが、本当に求めていることは何なのか。その結果、「情けと癒しと旅文化の創造」という企業ミッションにたどり着いたそうです。
そしてそのコンセプトに共感してくれるお客さんだけにターゲットを絞り、カラオケをやめ過剰な接待サービスもやめ、客室の数もぐっと減らしました。それから日々改良や改修を重ねて現在の姿に至っています。とにかく毎日必ずどこかを変えていると言います。ですから、リピーターも毎回違った体験を得られます。
冒頭に挙げた吹きさらしの渡り廊下も当初はガラス張りだったそうです。それをあえて外気に触れるように改修しました。「わざわざこの宿を選んでくれるお客さんは、冬は冬の寒さや雪の感触、秋は秋で落ち葉を踏む感触、空気の匂いを感じたいはず」という考えに基づき、変えたとのことです。ちなみに年末年始を休業にするのは従業員に休んでもらうため。家族の誕生日も休みだそうです。従業員にも家族がいて生活があり、それぞれの幸せがある。これをないがしろにしては良質のサービスは提供できないと考えているためです。現在、この宿にはここで働きたいという応募が全国から来ているそうです。
優良顧客に選ばれて高付加価値サービスを提供する。これを実現するには顧客の心の奥にある欲求を突き詰め、それを具現化するスタッフの育成が大事なのだと強く感じました。
Sing2024年2月号

トレンド通信
「客が本当に求めていることは何なのか」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
「この渡り廊下はわざと雪や落ち葉が舞い込むようにつくってあります」。長野県須坂市にある“日本一予約が取れない宿”として知られる仙仁(せに)温泉・岩の湯の金井辰巳社長に、現地でお話を聞く機会がありました。山間のありふれた温泉宿だったこの場所を三十数年かけて現在の姿につくり替えたストーリーは、驚きの連続でした。
まず、この宿には自前のウェブサイトがありません。宿泊業界では常識であるネットを通じた予約受け付けや情報提供はしていません。一部の旅行サイトにキャンセルが出た際の空室状況の情報が出ているようですが、そちらを見ると2024年の予約は年末まで1日も空きがありません。宿泊客のほとんどがまた翌年以降の予約を入れるそうです。クリスマスや年末年始は休業です。
宿は渓流に面した深い森の中にあります。金井社長によると、窓から見える木々は全て自身で種類や枝ぶりから配置を決めて、お客さんが見たい景色をつくり育てているそうです。客室は18あり、食堂も18、温泉の浴槽も大小合わせて現在18あります。どれも全てが違うコンセプトで形や温度、設備を変えています。
先代が経営していた昭和の時代はどの地域の温泉宿にもあるように、団体客をメインにしたサービスを提供していました。交通の便も良くない上、特に知られた観光地に近いわけでもないこの宿の生き残り策を必死で考えたと金井社長は言います。「山間の小さな一軒家」にしかできないことは何なのか。わざわざこの宿を選んでくれるお客さんが、本当に求めていることは何なのか。その結果、「情けと癒しと旅文化の創造」という企業ミッションにたどり着いたそうです。
そしてそのコンセプトに共感してくれるお客さんだけにターゲットを絞り、カラオケをやめ過剰な接待サービスもやめ、客室の数もぐっと減らしました。それから日々改良や改修を重ねて現在の姿に至っています。とにかく毎日必ずどこかを変えていると言います。ですから、リピーターも毎回違った体験を得られます。
冒頭に挙げた吹きさらしの渡り廊下も当初はガラス張りだったそうです。それをあえて外気に触れるように改修しました。「わざわざこの宿を選んでくれるお客さんは、冬は冬の寒さや雪の感触、秋は秋で落ち葉を踏む感触、空気の匂いを感じたいはず」という考えに基づき、変えたとのことです。ちなみに年末年始を休業にするのは従業員に休んでもらうため。家族の誕生日も休みだそうです。従業員にも家族がいて生活があり、それぞれの幸せがある。これをないがしろにしては良質のサービスは提供できないと考えているためです。現在、この宿にはここで働きたいという応募が全国から来ているそうです。
優良顧客に選ばれて高付加価値サービスを提供する。これを実現するには顧客の心の奥にある欲求を突き詰め、それを具現化するスタッフの育成が大事なのだと強く感じました。
Sing2024年1月号

トレンド通信
「地域ブランドを担う『感じの良い若者たち』を大切にしよう」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
先日、久しぶりに青森を訪ねました。青森駅から鉄道で20分ほどの浅虫温泉で、青森中央学院大学の健康ウォーキング・サークルの学生や先生たちと森の中を歩くイベントに参加するためです。彼らがサークル活動で取り組んでいるのは、クアオルト健康ウォーキングというドイツ発祥のメソッドで、体の表面温度や心拍数をモニタリングしながら自然の中を歩き、効率的に無理なく健康増進につなげるというものです。
森を歩いて解散した後、浅虫温泉の駅近くに最近できたクラフトビールの醸造所を訪ねました。もともと銀行の支店だったという建物をリノベーションした醸造所には、8席のカウンターと金庫だったスペースの中に置かれた4人掛けのテーブルが一つあり、そこでつくられた数種類のビールを味わえます。
この「蛍火(けいか)醸造」を開業したのは、青森市の丸山銃砲火薬店の三代目、花火職人でもある丸山桂多さん。クラフトビールに魅せられて、岩手県遠野市の醸造所でビールづくりを修業したそうです。醸造所のある地名の蛍谷と、もともとの稼業である花火にちなんで、蛍火醸造と名付けたとのことでした。
一緒に森を歩いた学生もそうでしたが、丸山さんや醸造所のスタッフも皆、地元のことが大好きで、地元のために何か貢献したいという気持ちを持っていました。こうした気持ちはおのずとその行動や言葉に表れるものです。とても感じの良いスタッフにいろいろと地域のことを聞きながらおいしいビールを飲んで、私もすっかり浅虫温泉と青森のファンになっていました。
最近、さまざまな地域で「地域ブランド」のつくり方や広め方といった内容で相談を受けたり、一緒に考えたりすることが多くなっています。そこでは地域資源を磨き上げて魅力あるものを地域外に発信したり地域に来て買ってもらったりといったことをまず考えます。ブランドとはそもそも顧客の心の中に形成された良いイメージのことです。それを醸成するのは良い印象を抱いた小さな体験の積み重ねです。昨今、「モノよりコト」が重要だといわれるのはそのためです。
こうした「小さな感じの良い体験」をする場所やシーンはさまざまです。地域の外に対してそれを提供する人もさまざまです。その地域を好きになってもらう魅力的な体験を提供するのに「地元が大好きな感じの良い若者たち」が重要な役割を果たしていると、今回の青森訪問で強く感じました。
地域ブランドは、つくっては消費するような単発で一過性のものであってはいけません。商品やサービスを通じた体験も含めてずっと提供し続けるには、やはり若い力が必要なのだと思います。ですから地域ブランドを考えるときは、これから長くそれを担う若い世代の考えを採用し、主役を任せることが大切なのだと思います。
Sing2023年12月号

トレンド通信
「重富さんのビール体験がもたらす『モノやコト』以上のもの」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
東京・銀座の広島県アンテナショップに、「ビール注ぎ名人」と呼ばれる重富寛(ゆたか)さんが4年ぶりに出張したので、訪ねてきました。普段は広島市の繁華街で、家業である重富酒店の一角で「ビールスタンド重富」という角打ちを拠点にしています。今年5月のG7広島サミットでは、国際メディアセンターでその名人芸を披露し、内外のメディアで話題になりました。
戦前からある注ぎ口を復刻したサーバーと現代のビールサーバーを駆使し、注ぎ方を変えるだけで、一つの銘柄の生ビールの味わいや口当たりをさまざまに変化させて提供します。それぞれの異なった味わいは、注ぎ方の違いでメニュー化されており、今回の東京遠征では6種類を出していました。
「注ぎ方で味が変わる」という話を初めて聞いた時はとても信じられず、実際に広島を訪ねて体験する前は「催眠術かオカルトの類いか」と思っていました。どうしてそんなことが可能なのか。かいつまんで言うと、注ぐ時グラスに入る流量や流速を変えて、発生する泡の密度や液体中の炭酸ガスの量などを制御しています。味わいや口当たりに影響する要素を注ぎ方で物理的に変え、その結果生じる微妙な違いを再現性高くコントロールしているのです。実際に何種類か飲んでみると違いに驚かされます。
それだけでなく重富さんのビール体験には、単においしいビールを飲むという行為以上の面白さと感動があります。ビールを注いでもらう間や味わっている間に重富さんは、ビールがいかに人類を長きにわたって幸せにしてきたか、そのためにビールづくりを手掛けた人たちがいかに苦労したかなど、さまざまなお話を聞かせてくれます。
重富さんが繁華街の一角で営むビールスタンドは、営業時間が午後5時から7時まで。食事やつまみも出さず、一人2杯までの制限もあります。それでも時によっては数十人が行列をつくり、開店早々に行っても1時間以上待つことがあります。これだけ人気店なのに、客単価を上げようとしないのは、そもそもの営業目的が自身の店の売り上げではなく、お客さんを集めて近隣の繁華街に回遊させる“ポータル”の役割を目指しているからです。また、その知識やテクニックを惜しげもなく同業者に伝えていて、広島の重富酒店の近くだけでなく、全国で重富さんの弟子や生徒に当たるビール注ぎ職人を育てています。
重富さんのビール体験の神髄は、ビールを通じて世の中の人が幸せを感じてほしいという思いにあります。普通ではあり得ないすごいビール(モノ)と、面白いお話やお店での人との出会いなどの体験(コト)以上に、こうした姿勢や考えに触れることで1杯のビールが客にとって特別なものに変わっているのです。
誰にでもできることではありませんが、どんなサービス業にも通じる大切な要素を含んでいると感じます。重富さんは、客が店を出る時「行ってらっしゃい!」と声を掛けます。その声を背中に聞いて、客は少し前向きになっている自分に気付くのです。私もそうでした。
Sing2023年11月号

トレンド通信
「ボーダーレス商品開発やフェーズフリーの考え方に注目」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
欧州で売られているキッコーマンのグルテンフリーのスシソース(SUSHI SAUCE)のパッケージが、ユニークだとネット上で話題になっていました。ラベルには、巻きずしにソースがかかっている写真とメーカー名、英文の商品名があり、さらに日本語で「鰻のたれ」と書かれています。当地の日本人が見ればどんな味かすぐピンときます。味の想像がつかない現地の人にはすしに使うソースだということで、用途が伝わります。
もともと江戸前ずしは今のようにしょうゆを付けるのではなく、穴子や貝のだしにしょうゆやみりんなどを加えて煮詰めたツメと呼ばれるタレを付けて食べるものでした。ですから、欧州のスシソースはこれに近く、むしろ伝統的な味わい方ともいえます。しょうゆと酒、砂糖をベースに、焼いた鰻をくぐらせてうまみを増した鰻のタレとは厳密には別物ですが、欧州では両方の利用シーンをカバーする商品として売られています。同じ商品でもターゲットが異なれば訴え方が違っていて、分かった上でそれを使い分けた例ともいえます。
私が興味を持ったのは、地方の小規模な事業者でも、最初から海外市場を視野に入れてものづくりをすることが珍しくなくなっているためです。こうした商品名の付け方や考え方が、参考になるのではないかと思いました。国内では地方の市場は縮小し所得も伸びないため、価格の安さより高付加価値で勝負したい事業者はおのずと海外市場を向いています。例えば食品でアジア市場を狙うなら、最初からハラル対応を考えておくといったことです。今後は最初から商品開発をボーダーレスで捉えておく時代なのかもしれません。
もう一つ、同じ商品でも異なったシーンに使える商品企画という意味で、フェーズフリーという考え方が注目されています。特に防災対策を意識した分野で進み始めています。例えば、普段使っているデスクライトが、いざという時はライトの部分だけ取り外して持ち運んで使えるようになっているといったことです。オフィスで数多く使う書類整理ボックスを並べ、非常時に寝泊まりする際の簡易ベッドとして使う考え方もあります。
ものづくりだけでなく公共施設でも、こうした考えを取り入れた例が出てきています。5月末、北海道小清水町にオープンした町役場と併設している複合施設では、カフェレストランやコインランドリー、フィットネスジムなどが計画的に集められました。災害時に住民の避難場所として使うことを想定して、住民の食事や健康状態、衛生状態を快適に保つために必要な機能を集約しています。日常でも非常時でも役立つことを想定しているのです。
あらかじめ複数の意図を持ってものづくりやサービスを設計すると、提供する価値がぼやけてしまわないか心配になります。むしろ想定ターゲットと利用シーンをはっきりと把握しているからこそ、可能になる手法だと思います。自社で提供している商品やサービスが、実はほかの利用シーンで新しい価値を持つ可能性はないか、一度検討してみると、新しい発想を得るヒントになるかもしれません。
Sing2023年10月号

トレンド通信
「よさこい祭りから感じた地域イベントの未来像」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
「たかだか数万円の出費で、何百万円もかけた商品開発の失敗を防げるのですから、安いものです」。先日聴いたセミナーで、日本百貨店のバイヤー日暮学さんがこう指摘していました。数万円の出費とは、地方の事業者さんが、東京に来て、さまざまなお店を視察する際にかかる費用のことです。日暮さんは、全国各地の食品や雑貨を、東京を中心とした店舗で販売するセレクトショップのバイヤーです。地方でものづくりをしているなら、まず東京へ来て、その商品が想定する売り場を実際に見て研究してほしいというのです。
店舗を観察することで、自分がつくろうとしている商品は、どういったタイプのお店で好まれるのか、店頭でどのように陳列・展示されているのか。競争相手や競合状況はどうなのか。価格帯や差別化の争点とその付加価値がどの程度販売価格に反映されているのか。その売り場に来るお客さんは、どのような人でどのような買い方をしているのか。あらかじめ視点を決めて集中して臨めば、1日に10店舗くらいは回れます。
前述したのは商品開発の視点ですが、小売業視点や広告業などのマーケティング視点、またお店を設計・運営する視点もあります。私もかつてパソコン市場の立ち上がり期に、記者として初めてその分野の取材を担当した時、秋葉原のさまざまなタイプのお店の売り場を毎日毎日観察しました。まずはその業界のことを知るため、お店による品ぞろえの違いや価格設定、人員の派遣の様子など。さらには店ごとに違うお客さんのタイプ、店員との会話や質問の様子を観察していました。
そのうち、いくつかの店のスタッフとも顔見知りになり、あまり表に出ないさまざまな情報も得られるようになりました。今でもとても役に立ったと思うのは、商品の魅力と価格、新商品登場のタイミングでお客さんの顔つきが違ってくることや、商品ラインアップと価格設定の関係などに関する理論や実践的な裏付けを学んだことです。
実は、お店の中だけでなく、駅や空港、大きな交差点のような空間も、広告のサイネージなど、ある種のビジネスにとってはそこが売り場になっています。また、例えばスマホのアプリのように、ある種のサービスや商品にとってはそこが、まさに消費の現場であることもあります。行き交う人々が、さまざまな形で提供される商品やサービスに対して、どのような関心を示し、どのように反応し行動しているのか、観察するのはとても面白いことです。問題意識を持った視点さえあれば、こうした現場はさまざまなマーケットデータを提供してくれる情報の宝庫です。
その昔、テレビでヒット番組を連発していた頃のテレビプロデューサー、テリー伊藤さんと一緒に仕事をした時、ヒットを生む秘訣(ひけつ)を聞いたところ、「君は女子高生の生活に興味あるか?」「あまり、ありません」「だからダメなんだよ。他人の人生に興味を持たないヤツにヒット商品なんかつくれないよ」と言われたのを今も思い出します。
Sing2023年9月号

トレンド通信
「お店やお客の観察はこんなに面白い」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
「たかだか数万円の出費で、何百万円もかけた商品開発の失敗を防げるのですから、安いものです」。先日聴いたセミナーで、日本百貨店のバイヤー日暮学さんがこう指摘していました。数万円の出費とは、地方の事業者さんが、東京に来て、さまざまなお店を視察する際にかかる費用のことです。日暮さんは、全国各地の食品や雑貨を、東京を中心とした店舗で販売するセレクトショップのバイヤーです。地方でものづくりをしているなら、まず東京へ来て、その商品が想定する売り場を実際に見て研究してほしいというのです。
店舗を観察することで、自分がつくろうとしている商品は、どういったタイプのお店で好まれるのか、店頭でどのように陳列・展示されているのか。競争相手や競合状況はどうなのか。価格帯や差別化の争点とその付加価値がどの程度販売価格に反映されているのか。その売り場に来るお客さんは、どのような人でどのような買い方をしているのか。あらかじめ視点を決めて集中して臨めば、1日に10店舗くらいは回れます。
前述したのは商品開発の視点ですが、小売業視点や広告業などのマーケティング視点、またお店を設計・運営する視点もあります。私もかつてパソコン市場の立ち上がり期に、記者として初めてその分野の取材を担当した時、秋葉原のさまざまなタイプのお店の売り場を毎日毎日観察しました。まずはその業界のことを知るため、お店による品ぞろえの違いや価格設定、人員の派遣の様子など。さらには店ごとに違うお客さんのタイプ、店員との会話や質問の様子を観察していました。
そのうち、いくつかの店のスタッフとも顔見知りになり、あまり表に出ないさまざまな情報も得られるようになりました。今でもとても役に立ったと思うのは、商品の魅力と価格、新商品登場のタイミングでお客さんの顔つきが違ってくることや、商品ラインアップと価格設定の関係などに関する理論や実践的な裏付けを学んだことです。
実は、お店の中だけでなく、駅や空港、大きな交差点のような空間も、広告のサイネージなど、ある種のビジネスにとってはそこが売り場になっています。また、例えばスマホのアプリのように、ある種のサービスや商品にとってはそこが、まさに消費の現場であることもあります。行き交う人々が、さまざまな形で提供される商品やサービスに対して、どのような関心を示し、どのように反応し行動しているのか、観察するのはとても面白いことです。問題意識を持った視点さえあれば、こうした現場はさまざまなマーケットデータを提供してくれる情報の宝庫です。
その昔、テレビでヒット番組を連発していた頃のテレビプロデューサー、テリー伊藤さんと一緒に仕事をした時、ヒットを生む秘訣(ひけつ)を聞いたところ、「君は女子高生の生活に興味あるか?」「あまり、ありません」「だからダメなんだよ。他人の人生に興味を持たないヤツにヒット商品なんかつくれないよ」と言われたのを今も思い出します。
Sing2023年8月号

トレンド通信
「絶品の有機野菜を支える『部活』の仕組み」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
先日、愛知県の伊良湖岬の近くで春菊やニラなどの野菜を育てている吉田園を訪ねてきました。抗生物質などの薬を与えずに育てた豚のふんから堆肥をつくり、農薬を使わないで野菜を育てることに徹底してこだわっています。地元の高級フレンチレストランのシェフが足しげく通う農園で、その取り組みはテレビなどでも紹介され、ネット直販を通じたファンが全国にいます。
農薬を使わないで野菜を育てるのは、安心・安全という付加価値を生む一方で、雑草や害虫などの駆除や対策に膨大な手間を必要とします。しかもその手間によるコスト上昇分を全て販売価格に転嫁するのは難しいという現実があります。
こうした中で吉田園のビジネスを支えているものの一つに、吉田さんが「部活」と呼ぶ、ボランティアによる雑草取りや害虫駆除などの作業提供の仕組みがあります。近隣だけでなく、名古屋市や東京近郊からこの活動に参加する人が数十人もいるそうです。
部活は基本的に無償参加ですが、お礼にそのときどきの野菜を持ち帰ってもらっています。健康維持のため、ストレス解消のため、子ども連れで参加して食育や自然に触れ合う教育のためなど、参加者の目的はそれぞれ。参加する側も大いに農作業を楽しんでいるそうです。地域の人口が減り、人手不足が慢性化している状況の中、高付加価値なビジネスをつくりたいと考える地方の事業者にとって、多くの示唆がある例だと思いました。
事業者がビジネスを回していくためには、大きく「ヒト、モノ、カネ、情報」の四つの経営資源が必要だとされています。いずれも地方の中小企業には十分だとはいえません。カネについて、例えばクラウドファンディングは、地域外の人からも直接支援を受け付ける仕組みです。ただ、クラウドファンディングでは、サービスを提供する事業者に15~20%程度の手数料を支払う必要があることや、あらかじめ返礼品のコストを見込んでおかなければなりません。人件費をダイレクトに削減できる吉田園の部活に比べると、実質的な支援の効果は薄まってしまいます。
部活では、お礼に採れた野菜を持ち帰ってもらっていますが、たくさん採れて余裕のあるものや、少し形が悪くて市場で売りにくいものを使うため、コストはさほどかかりません。そもそも、部活で汗を流すこと自体が、部員にとってのメリットなため、お礼の品を豪華にする必要がなく、事業者のコスト負担は小さくなっています。
人口減少や高齢化によって、地方で人材の手当てはどんどん難しくなっています。物理的な作業を求める人手としてだけでなく、例えば都市部の大企業で培ったビジネススキルを必要な時期だけ、適切なコストで地方に受け入れるための仕組みもいろいろと考えられています。いわばよそ者が地方の付加価値づくりを支える仕組みです。これが成功するために大切なことは「良い関係を生んでいるのはおカネではなく善意」という点だと思います。
Sing2023年7月号

トレンド通信
「川上思考、川下思考のすすめ」
日経BP総合研究所
上席研究員
渡辺 和博 氏
「明日は千葉で田植えです」。打ち合わせをしていた高島屋の和菓子バイヤーさんがそう言うので事情を聞くと、同じ部署の人たちと交代で毎年田植えに参加しているとのこと。そこで育てたもち米は老舗の和菓子屋さんに納入され、それを原材料につくられた和菓子が高島屋で販売されているそうです。普段、和菓子を売る立場の人が、原材料づくりの第一歩から体験することで、商品に対する知識が深まり愛着も湧きます。こうした経験に基づいて、商品やその原材料をつくってくれる人への感謝の気持ちを持って販売に臨めるといいます。
中国の故事成句「飲水思源」とは、受けた恩や物事の基本を忘れないという意味ですが、まさにそれを地で行くようなエピソードだと思いました。
小売業やサービス業など直接お客さんに接する業態では、こうした考えで生産者さんを訪ねたり、自らものづくりを経験したりする例はたくさんあります。特に食品で顕著ですが、スーパーやコンビニだけでなくどんな売り場でも、消費者は手に取った商品をひっくり返して原材料や生産地、生産事業者を確認します。それだけ商品の上流をさかのぼるトレーサビリティーに対する要求を持つ消費者が多いということです。
一方で、食品の分野でも普段消費者と接することのないBtoBの事業では、自社の製品をずっと川下まで追いかけて行く例は少ないような気がします。最終的にどこへ行くのか把握できないケースも多いためです。
和歌山の梅農家でこのような話を聞きました。そこで出荷される梅を使った梅酒はとても人気が高く、シンガポールや香港など海外でも売られています。国内向けには高品質のブランドとして売られる梅酒に使われていますが、海外市場ではディスカウントショップのルートを通じて、格安の梅酒という位置付けで売られていたそうです。
これは、海外向けの梅酒製造を手掛けるメーカー向けに原材料を卸している商社が、まとまった量を安く仕入れて、特に高品質というブランディングもしないまま酒造メーカーに売ったためです。生産者としてはいったん商社に売ってしまったら、その先はどうなっているか知ることも、コントロールすることもできません。つくり手としては、本来どのチャンネル、どの地域でも高級な原材料というブランドを確立したいのです。
近年、地方発のものづくりでは、従来BtoB向けのビジネスしか手掛けてこなかった事業者が、消費者向けの商品に進出する例が増えています。農業や水産、畜産でいえば生産者が原材料を加工して商品をつくる、いわゆる「6次化」もその流れの一つです。6次化をうたう商品が多くのケースでうまくいかないのは、消費者の感じる価値と価格の関係を、生産者がよく理解できていないことが原因の一つではないかと思います。
原材料の生産から加工、製造、販売とさまざまな立場があります。時には自分のビジネスの上流や下流を徹底的にたどることで、価値の発生源を再確認してはいかがでしょう。
Sing2023年6月号
トレンド通信

「『アップサイクル』を形にしてみせた今治のホコリ」
渡辺 和博 氏
日経BP総合研究所
上席研究員
「アップサイクル」という言葉をメディアなどでよく見かけるようになりました。本来ならば捨てられてしまうものを再利用して、新しい価値をつくり出すという意味です。似たような言葉に「リサイクル」がありますが、こちらは捨てられてしまうものをもう一度原料の形に戻して再利用しようという考え方です。捨てられてしまうものをそのままの形で、別の場所で再利用するのは「リユース」といいます。
アップサイクルは、捨てられてしまうものを、これまでとは別の視点で捉え直して新しい付加価値を生むところにポイントがあります。そのため創造的再利用と呼ばれることもあります。言葉だけではイメージしにくいかもしれませんが、このような事例があります。いまや愛媛県を代表する産品としてブランドになった今治タオル。色とりどりのタオルを染色して乾燥する際に発生してしまう糸くずが、いま、意外な用途とシーンで話題を呼びヒット商品になっています。「今治のホコリ」というネーミングで発売されました。
なんということのないカラフルな糸くずというか、綿ぼこりをそのまま透明なプラスチックの筒に詰め込んだだけの商品です。これがアウトドア用のたき火やバーベキューの着火剤として、新たな市場価値と捉えられてヒットしています。もともと空気を大量に含んだふわふわな糸くずなので、火を付けるとすぐに燃え上がります。実は、アウトドアでたき火やバーベキューのために火をおこすのは、それなりにテクニックが必要です。それが簡単にできて見た目もカラフルというのが、この素材がうまくはまった理由でしょう。
捨てられるものは、本来ならば一つの物差しで測ったときに価値がないと結論づけられたものです。ところが、それが持つ別の機能性や特徴が生きるシーンとマッチングすれば、新しい価値を持った商品に生まれ変わるという構造です。まさに「捨てる神あれば拾う神あり」といえます。
実は、こうした捨てるものを付加価値の源として再活用する考え方は、これまでにもたくさんの分野で試みられています。例えば、大分のかぼすブリや愛媛のみかん鯛、広島サーモンのようにご当地の特徴的な柑橘類を絞った皮を餌として与えて育てた魚は、同じ魚種でも柑橘類が持つ成分によって臭みが低減される上、先にブランド化している柑橘との組み合わせで地域性を持たせることができるため、新しい地域ブランド商品に育っています。
魚に関していえば、魚種としてあまり知名度がなかったり鮮度維持が難しかったりするために、水揚げされてもあまり利用されなかったものが未利用魚として缶詰になる、食材定期便に採用されるなど、SDGsの文脈の中で新たな価値として注目されるようになってきました。これまでの物差しでは捨てるものでも、時代によって物差しが変化したり、残存する機能や成分などが生かせる新たな市場が生まれたりしています。
Sing2023年5月号
トレンド通信

「弘前のすじこ納豆から考えるヒットの要素」
渡辺 和博 氏
日経BP総合研究所
上席研究員
青森県弘前市の食品市場「虹のマート」内にある「津軽弘前市場ハマダ海産」が販売する「すじこ納豆」がヒット商品になっているそうです。すじこはサケなどの卵をバラバラにせず塩漬けやしょうゆ漬けにしたもので、この地域で伝統的に食べられている食材です。また納豆も青森県では冬のたんぱく源として好まれる食品です。ちなみに総務省統計局の調査(2022年)では、青森市の納豆に対する年間支出額は1世帯当たり5782円で、全国平均(4217円)より3割ほど多くなっています。高級食材のすじこと庶民的な総菜の代表格である納豆の組み合わせは意外な感じがしますが、かつて青森地域ではすじこも価格が安く庶民の日常的な食材の一つだったそうです。そこで、手近にあった納豆との組み合わせが自然に生まれたのでしょう。ごはんの上に納豆を乗せ、さらにすじこを乗せるすじこ納豆という食べ方は青森県出身の作家・太宰治も好んだ地域の食文化の一つになっています。
これが今年の春になって注目されているのは、テレビ番組で紹介されたことがきっかけですが、それまでの10倍も売れるようになった理由は、すじこを扱う海産物の商店がすじこだけでなく、それと組み合わせて食感が良いサイズにひいた納豆のパックとセット商品にしたところにもあると思います。消費者にすれば、すじこだけを注文して、納豆は自分で調達するという方法もありますが、あらかじめセットになっていれば、納豆選びで失敗することもありませんし、話題になった商品の組み合わせを確実に追体験できるという満足感もあります。
今回のすじこ納豆の売れ方で面白いのは、テレビで取り上げられて話題になったにもかかわらず、地元では売り上げに大きな変化はなく、売り上げの伸びを支えているのがほとんど関東地域からのネット通販だというところでしょうか。
ヒットしたのには、さまざまな要素が含まれていると考えられますが、地域の食文化でありながら他の地域にはあまり知られていない食べ方だったこと、ありふれた食材との組み合わせの意外性の面白さ、確実においしいと想像させる簡単レシピの提案にもなっていることなどが挙げられると思います。
この「ありふれたものの意外な組み合わせ」というのは、今回のケースに限らず、まだまだ開拓される余地がある切り口だと思います。典型的な例は和菓子のいちご大福です。発祥とされるお店はいくつかありますが、世に出てからほどなく多くのつくり手が追随しました。今では和菓子の一つの大きなジャンルを形成するまでに広がって、定着しています。
まったくゼロからヒット商品を開発するのは誰にとっても難しいものです。複数の商品を組み合わせる、サイズを変える、用途を変える、売り場を変える、ターゲットとする顧客を変えるといった発想転換が新しいヒットの起点になることがあると意識して、地域資源や地域の文化・風土をもう一度見直してみてはいかがでしょう。
Sing2023年4月号
トレンド通信

「『信長の水』を体験して思ったこと」
渡辺 和博 氏
日経BP総合研究所
上席研究員
安土桃山時代の名前の由来となった安土城は、織田信長が最後に建てた城で、滋賀県近江八幡市安土町にある城址に名残をとどめています。そのお膝元に当たる場所に、織田信長が茶の湯のためにくませた湧き水「梅の川」がありました。現在は地下水の水位が少し下がったために「梅の川」の水は枯れていますが、すぐ近くに今もこんこんと水が湧いている場所が何カ所もあります。
そんな湧き水スポットの真上に建てられた料亭で、食事をする機会がありました。地元で採れる川魚や野菜、果物などをランチのコース料理でいただいたのですが、最初に日本酒を飲むぐい飲みサイズのグラスで、厨房に湧いている水がそのまま何の味付けもせずに出されました。
水の味の微妙な違いを私が分かるわけではありませんが、信長もこの水のおいしさを理解してわざわざ求めていたのかと思うと、何か貴重なものをいただくような厳かな気持ちになりました。たった一口の水ですが、私にとっては強く記憶に残る体験となりました。
料亭でいただいたコース料理は、どれもきれいな器に盛りつけられていて、それぞれの素材の味を生かしながら見た目も美しく、日本料理の技を駆使した良い仕事を感じさせるものでした。素材自体は高級な肉や遠くから取り寄せた海鮮などが使われているわけでなく、あくまでも地元でその時期に採れた旬のものばかりでした。一つひとつの料理を提供するときに、まだ若い料理長からその食材や地域の食文化について、詳しい説明があり、地域の自然や季節に対する感謝の気持ちを主客で共にすることができました。
地域の資源を活用してヒット商品をつくるためにはストーリーが重要だと、よく言われます。私自身もこのコラムをはじめさまざまなところで、何度もそのように取り上げています。「信長の水」体験を通じて感じたことは、ストーリーが体験としてお客さんに届き、深く心に刻まれるためには、もう少し必要な条件があるのではないかということです。
ストーリーは、演劇でいうと脚本のようなもので、それが観客に届くためには、形にして見せる役者や舞台が必要だというような感覚です。今回の私の体験に置き換えてみれば、ストーリーは「信長が追い求めた水の味」であり、それを形にしたのが「一杯の水」や「その水で育った地域の野菜や川魚」で、さらには一つひとつの料理について語ってくれる料理長さんも役者の役割を果たしてくれたといえそうです。舞台装置に相当するのは、それらをいただいた料亭の快適な空間や、美しい器でしょうか。
おそらく、信長の水に相当するようなストーリーを持つものは、全国各地に多数あるのでしょう。しかし、ただあるだけでは宝の持ち腐れです。もし良いストーリーがあるのにうまく生かせていないと感じるのではあれば、もう一度、それを形にする役者と、役者と顧客をつなぐ舞台が機能しているかどうか、チェックしてみてはいかがでしょう。
静岡商工会議所 企画広報室