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​静岡商工会議所 Sing 今月のコラム

​Sing2024年3月号

ITを事例からひも解く

「システムは自社に合ったものを選ぶ?作る?」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」で取材した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 

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 IT活用のセミナーの講演にて、ある経営者の方から質問をいただきました。

「システムはIT企業にどういうのが欲しいか頼んで作ってもらうのですよね。お金も手間もかかりますよね」

 確かに、以前はITシステムの構築には時間もお金もかかりましたが、業務にフィットして手が届く距離になったのが10年前くらいからの大きな変化です。だからこそ「企業規模に関係なくIT経営を実行しましょう」「ITを使わずに不利になるのはもったいない」と強く言われるようになったのです。

 例えば会計業務や請求書の発行など形が決まっている業務は、使いやすく便利なITツールがたくさん提供されています。自社に合いそうなものを選んで導入するようにしましょう。

 では、各社異なる現場業務はどうすれば良いでしょうか。

 おすすめは、まず、1.現在提供されているITサービスやパッケージソフトが使えるかどうか調べてみる、フィットするものがなければ、2.ツールを使って自社内でシステムを構築する、それも難しければ、3.オリジナルのシステムをIT企業に発注する という順番です。

 

●急激に進化する業務のITツール

 例えば製造業においては、生産管理のITツールがよく利用されます。利用者の増加により特徴が出てきています。

 研究機関からの試作品を多く受注しているある企業では、一つの受注ごとに原材料、そして従業員の作業時間をもとにした人件費を統合的に管理して、利益がきちんと出ているか、改善点はどこかを見いだしたいと考えました。このような課題を持つ企業向けに開発された生産管理システムが見つかり、現在は利益の把握はもちろん、適正見積の作成にも役立てているそうです。

 対照的に、新しい事業を開発した場合や、業界の常識を飛び越えるビジネスを推進するときなどは、フィットするITツールが用意されていないことが多くなります。同じITを必要とする企業が少ないからです。

 その場合は、依頼してオリジナルのシステムを構築してもらうか、「FileMaker」「kintone」などのようなデータベースツールを活用し、社内で発生するデータとその流れを整理して自社用のアプリケーションを作るという選択肢があります。法人向けビジネスが主流の業界にもかかわらず新しく個人向けビジネスを始めた、ある会社では「kintone」を用いて受注から当日に向けての準備、サービス実施、請求までを一貫して管理するシステムを社内で構築し、新しいビジネスを軌道に乗せました。こうしたケースでは、システムの「お世話」ができる人材が必要となります。システムを少しずつアップデートしていくことも多いので、担当者が異動・退職しても問題が生じないように情報共有をしておきましょう。

 ITツール選びは、自社の課題はどこにあるかを明確にし、優先順位をつけることが大切です。商品・サービスそのものが売りなのであれば、業務効率化や利便性を高めるITツールを入れて価値創造に時間を投下。仕組みやビジネスモデルに特徴があるなら、ITにも独自性を求めていきましょう。

 

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【事例からヨミトル】

・様々な業種、業務で使えるITツールが増えています。優先取り組み課題が整理できたら、今どんなツールが提供されているか、探してみましょう。

・ビジネスの仕組みに独自性が高い場合は、データの流れを整理し自社内でシステムを構築する選択肢があります。

​Sing2024年2月号

ITを事例からひも解く

「コンテンツの作成で悩むときは
『ChatGPT』も活用してみよう」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」で取材した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 

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 ホームページにブログ、SNS。ネットを使った情報発信は会社や商品のPR、問い合わせや集客増に欠かせない顧客接点です。とはいえ、知らせたいニュースやトピックスがあるときはともかく、「書くのが大変」「何を書けばよいのだろう」と悩むことも多いのではないでしょうか。「どうしようかな…」と考えているうちに時間が経ち、情報発信が途絶えてしまいがちです。

 「ネタ探し」「観点の発見」など「考えるときのヒント」として活用してみたいのが、最近話題の「ChatGPT」(チャットジーピーティー OpenAI社)です。

 AI(人工知能)は、人間が行う判断を学習し、推測の精度を上げていく技術です。「ChatGPT」は、言語を扱うことができ多数のコンテンツを事前に学習しており、利用者の問いかけに応じてアウトプットできる革新的なサービスです。2022年秋にサービスインしてからは、大きな話題を提供しました。文章や画像などを生み出すAIは「生成AI」と呼ばれ、AIの新時代を拓きました。

 23年は、私も全国各地で「ChatGPTを入口にした生成AIがもたらすインパクト」について入門セミナーを担当いたしましたが、それぞれの地で、皆様の関心の高さを感じました。

 

 ●「ChatGPT」から視点を得る

 原稿執筆時点において提供されている無料の「ChatGPT3.5」では、問いかけや指示に対する「回答」をわかりやすく文章で返してくれます。あくまでも回答であり、解答=正解ではないことに注意しておきましょう。

 人が書いたかのように文章を生成することはできますが、内容を全部理解しているわけではないので、一つの見解として参考までに利用するのがコツです。

 「正解ではないかもしれないのになぜ役立つの?」との疑問が湧くかもしれません。「ChatGPT」は過去の大量の情報(最新ではない)を学習しているので、幅広い情報に基づいた視点、自分にはない観点を得られることがあります。

 

 ネットコンテンツ作成のヒントをもらった2社の事例を紹介しましょう。

 一つは「ネタ探し」です。事業分野に関連した話題はないか。調べたほうがよいテーマはないかなどを「ChatGPT」に問いかけて、「これいいな」と感じたものを自分で深掘りしている経営者の方がいらっしゃいます。作成の効率が向上したそうです。

 例えば、「スマートフォンに関するブログを書きたいのだけど、どんなテーマがあるだろう」「美容院で行うカラーリングについてネタはない?」などと問いかけ、示されたテーマでピンときたものを参考に、自分で勉強しつつ、書いてみるというのはいかがでしょう。

 もう一つは、「自分にはない視点」です。例えば、毎回頭をひねっているけれど、どうしてもパターンが決まってしまうキャンペーンのキャッチコピーや商品・サービスの紹介。人はそれぞれ言葉づかいに特徴や「癖」があり、自分とスタッフの感覚から脱することができないものです。そんなときに「自分の業種(あるサービス業)に足を運ばない人の理由はなんだろう」と問いかけて、そこに訴える文章を書いた経営者の方がいらっしゃいます。その店舗は、「来ない理由」に挙げられた点をクリアしていたので、その特徴を一つずつテーマにして投稿しようと決めました。

 そのほか、「弁当店のキャッチコピーの改良案を欲しい。考えるときに必要な情報はなんでしょう」と問いかけて、「次の3つに注目してみましょう。 1.ターゲット層の拡大:どのような新しい顧客層をターゲットにしたいですか?  2.お弁当の特徴:強みは何ですか? 3.店の雰囲気や哲学:価値観やお店の様子は?」といった回答を受け、指摘されたポイントを言葉にして、「ChatGPT」にキャッチコピー案を出してもらう、といったこともできます。

 自分やスタッフとはまた別の第三の観点が得られて、発見があることと思います。人と話していて「そういう考え方もあるな」「自分はそこに気づかなかった」と感じることに似た機会を得られるでしょう。

 こうしたツールは仕事の効率を上げることはもちろん、考えの整理や広がりをもたらす点に面白さがあります。最新技術であるAIも使うのは人ですから、上手な活用法を考えていきましょう。

 

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【事例からヨミトル】

・「ChatGPT」はたくさんの文章を学習し、指示に応じて日本語で文章を生成できる新しいAIサービスの一つです。

・一部サービスを無料で利用できるので、試してみるのもお勧めです。

・正解を得る目的ではなく、考えを整理したり深めたり、自分にはない表現案を得たりすることに活用してみましょう。

​Sing2024年1月号

ITを事例からひも解く

「新しいIT技術をキャッチして、『できなかったこと』を解決する」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 「解決は無理」とあきらめていたことも、新しいIT技術の登場によって解決できる可能性があります。保育園を運営するビック・ママでは、事故防止をサポートできるシステムができないかと考えていたところ、IoTを知り、可能性を見いだしました。 

 「COMPASS ONLINE」から転載します(記載内容は2018年冬時点のものです)。

 

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<会社概要>

株式会社ビック・ママ

宮城県仙台市若林区東八番丁183BM本社ビル

設立:1993年

従業員数:383人(パート含む)

事業内容:洋服のお直し、保育園(「ビックママランド」)、その他

URL:(保育事業)https://big-mama.co.jp/bml/

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 生後2か月~6か月の乳児は乳幼児突然死症候群(SIDS)を起こし、突然亡くなることがある。うつぶせ寝のときに発生しやすいといわれるが、明確な予防の手段がない。保育園では様子を確認するため、5分おきの見守りが推奨されている。

 宮城県に本社を置く、洋服のお直しビック・ママが運営する保育園「ビックママランド」では、こうした見守りをサポートして保育士の心理的な負担を軽減するシステム「べびさぽ」を活用している。

 睡眠中の乳児をカメラで見守り、映像データをサーバーに蓄積。5分間のサイクルで、動きがない、またはうつぶせ寝になったと認識すると、段階に応じてランプとメロディで知らせ、事故防止に役立てるというものだ。もちろん保育士はしっかりと見守りを行っているが、万が一の事故を予防するサポートがあることの安心感は大きい。そして画像の記録は保育士の姿も映るので「きちんと仕事をしている」証明にもなる。職場における働きやすさ向上にもつながっているのである。

 乳児の画像撮影については、入園前に保護者にシステムを説明して了解を得ている。「べびさぽ」の仕組みを評価する声は多く、保育園の付加価値向上も図られている。このシステムを「自宅にも置けないか」との打診もあったそうだ。

 システム開発は「うつぶせ寝などによる事故をゼロにしたい」という守井嘉朗社長の強い思いからスタートした。

 モノとモノがネットにつながりデータをやり取りできるIoT(Internet of Things)を知り、「IoTでできるのではないか。タグやセンサーが使えないか」と自身でもいろいろな方法を考えていたとき、地元仙台市のIT企業・トライポッドワークスと出会った。実現したいことを話し検討を重ねた結果、この方式を見いだしたという。

 開発にあたったトライポッドワークスは、趣旨を聞き、まずは約2か月、保育園の現場にカメラを入れ、現状把握に努めた。現場の様子から提案したのが「保育士の見守り業務支援」というコンセプトだった。一口に「見守り」といっても、システムが危険を知らせて人が従うタイプと、滞りなく進んでいる仕事において万が一のケースに備えるタイプがある。IoTの活用方法も現場の業務の在り方によって変わり、よりフィットする方法を選択することが望ましい。

 これまでになかったシステムを構築する際は、経営者の強い思いと、新しい技術で実現できることへの感度、そして、技術ありきではなく現場の様子をつかんで提案を行うITベンダーとの良好な関係がベースになるといえる。

 「べびさぽ」は他の保育園にも販売し、安心して預けられ安心して働ける保育園を増やしていくとのことだ。

 

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【事例からヨミトル】

・IT技術の進化により、「できること」が増えています。

・業界初のITシステムを構築する際は、技術面はもちろん、現場を理解する姿勢を持つITベンダーを選びましょう。

・経営者の強い思いや日頃からの課題意識が、解決への道を開きます。

​Sing2023年12月号

ITを事例からひも解く

「業界の変化を先取りし、デジタルと人の役割分担を明確に」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 IT経営マガジン「COMPASS」2021年夏号から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

 

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<会社概要>

株式会社けやき総合管理

山梨県甲府市国母5-9-19

設立:2008年

従業員数:正社員20人 パート10人

事業内容:賃貸、アパート・マンション管理業務、駐車場等管理業務、

不動産仲介、住宅改修・リフォーム・リノベーションなど

URL:https://www.keyaki-s.com/

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 「3年計画のDX推進を一気に前倒ししました」

 山梨県甲府市を中心に不動産業を営む、けやき総合管理の谷隆仁社長は、当初の計画表を書き換え、精力的にデジタル化を進めている。

 同社は賃貸物件の仲介業(一般顧客対象)と賃貸物件管理業(物件オーナーが顧客)を主要事業とし、5店舗を構える。

 賃貸仲介業においては、デジタル改革関連法にともなう宅地建物取引業法の改正により、2022年から賃貸仲介における契約書や重要事項説明書等の電子化・押印廃止が認められ、大きな節目を迎えた。オンライン化で不動産業界のDX(デジタルトランスフォーメーション デジタルを活用した革新、新しいサービスの開発等)を加速できるチャンスだ。

 けやき総合管理では、19年秋、ペーパーレスと業務効率化を目指し、賃貸物件仲介業務(募集、広告、契約、顧客管理など)をカバーするITツール「ESいい物件One」(いい生活社)を導入した。IT導入補助金にも採択されたという。 

 不動産業界においては、物件を借りる顧客側の情報収集はネットにシフトしてきたが、物件を決めた後にたくさんの書類に記入し押印するスタイルは変わらずであった。

 「マンパワーに頼っていたら、働き方も変わりません。ITシステムを使って工数を減らし、FAXや電話の利用もできるだけ抑えたいと考えました」

 谷社長は、これまでの業界の常識を時代に即して変えていこうと挑戦を始めた。

 不動産業界のITツールは様々に提供されており、比較した結果、拡張性があること、ITベンダーとのやり取りにおいて常に改良を重ねていく姿勢を感じたことから、このツールを選択したという。

 

 導入後は、問い合わせから成約まで顧客との接点を追いやすくなった。ネットからの問い合わせ情報を取り込み、また直接来店した顧客にはタブレットから情報を入力してもらうことで、顧客情報をデータ化する。内見記録などその後のやり取りを把握し、再来店の際にもきめ細かい接客を可能にした。また、これまで入居募集を開始した物件情報は複数のネット紹介サイトに手作業でアップしていたが、システムの機能を用いて、1度の操作で数社のサイトに情報を公開できるようになった。

 店内では物件情報をタブレットで提示し、紙を減らす工夫もしている。また、VR(Virtual Reality その場にいなくても空間の様子をデジタル表現する)を使った内見サービスなども提供中だ。

 こうした取り組みの結果、物件情報サイトへの物件公開作業時間が3割短縮、残業時間の削減など効率化を図ることができた。

 IT活用により捻出した時間で、日々の業務はどのように変わっていくのだろうか。

 「賃貸仲介事業に関しては、より豊かな情報を発信したり、ホームステージングなど住み方の提案をしたり、動き方が変わるでしょう。賃貸物件管理事業では、人脈を広げ物件オーナーのことをよく理解し、提案する力が勝負になります。お客様が求めるものに沿ってマインドを変えられるかどうか。会社の新しいスキーム作りを急ピッチで進めつつ、人材育成にも力を注いでいきます」

 谷社長は、今後の不動産賃貸事業の在り方についてこう締めくくった。

 

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【事例からヨミトル】

・業界の常識は変わっていくことを前提に変革を進めていきましょう。

・業種に特化したITツールは、業界ならではの効率化を実現できます。

・IT活用で効率化した時間を付加価値の高い業務に投下していきましょう。

​Sing2023年11月号

ITを事例からひも解く

「ベテランの知恵を、会社の財産にするには?」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 岐阜県の下呂温泉にある旅館「紗々羅」は、個人客、とくに女性に人気の宿を目指しています。情報を直接発信し、リピーターにきめ細かい対応を行うために、IT活用に力を入れ始めました。その際、現場になじませながら無理せず定着させていく方法を選びました。

 IT経営マガジン「COMPASS」2019年冬号から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

 

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<会社概要>

有限会社森山旅館(紗々羅)

岐阜県下呂市森1412-1

設立:1986年

従業員数:35人(パート含め約60人)

事業内容:旅館業(温泉施設あり)

URL:https://www.sasara.co.jp

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 例えば女性二人で旅を計画。宿泊先では温泉にエステ、おしゃれなカクテルを楽しみ、優雅なひと時を過ごしたい。このとき、団体客がバスでやってくる従来型の旅館は選択肢に入りにくい。一人旅ならなおさらだ。

 下呂温泉の高台に建つ「紗々羅」(会社名:森山旅館)は、この流れとは一線を画したラグジュアリーな温泉旅館だ。

 デザイン性の高い内装・くつろげる空間づくりを行い、個性ある客室を提供。2018年に改装した和洋室は、「和と洋の良いところ」を融合させ、新しい空間を提案している。

 「団体旅行が主流だった20年前から、個人客をターゲットに“女性に人気の宿”を目指しています。現在、44室のうち20室が露店風呂付であり、部屋の改装も次々行っています」

 事業コンセプトをこう語るのは、代表取締役の大前文夫氏である。顧客が喜ぶ姿をイメージし、一歩先を行くアイデアを出し続ける。

 顧客満足度を高めて相応の宿泊費を設定する戦略を立て、実現に向けITも取り入れることとした。自社Webサイトからの予約率向上とリピーターを増やすためだ。

 Webサイトは、部屋や料理の写真など、同社ならではの様子を写真で伝え、「このお料理を食べたい」「この部屋に泊まりたい」と感じたらそのまま予約に移れるよう改良した。

 紗々羅には、100平米を超える独自内装の特別室が2室あるが、この部屋は旅行代理店には出さず自社サイトからのみ受け付けている。

 IT面を担当する課長の大前雅嗣氏は、「部屋の様子を詳しく伝えられる効果は大きい。稼働率も上昇してきました」と手ごたえを話す。

 

 リピーターを増やすには、顧客の状況を把握したきめ細かいサービスが欠かせない。常に心がけているが、担当する仲居の記憶に依存しがちでバラツキが生じていた。

 そこで、ホテル・旅館の業務にフィットするクラウド型の顧客管理サービス「神対応-ホテル・旅館-」(スペリオル社)を導入し、顧客の様子や好み、食事のアレルギーなどを一元管理して共有。個人に依存せず、顧客の情報を次回宿泊時のサービスに反映させられるようにした。

 ITシステムは初導入であり、戸惑いもあったという。そこで、いきなり仲居にIT機器を配布することはせず、「顧客の情報を言葉にしてメモを書く」習慣作りから始めた。大前課長は次のように説明する。

 「メモの内容は事務所でシステムに入力し、その日のお客様の留意点はシステムを参照してメモで渡しています。当初、記載内容には濃淡がありましたが、だいぶ慣れてきて、意義も理解してもらえるようになりました」

 システム導入後、リピーターが着実に増加してきた。「従業員の質・感覚が高まっています。やってよかった」と大前社長は感想を話す。

 いずれ仲居自身が入力、確認できるようタブレットも導入する予定だが、あくまでもバックヤードで使い、情報を頭に入れてから接客したいとのことだ。

 

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【事例からヨミトル】

・顧客側の変化を受けとめ、自社ならではの個性を打ち出していきましょう。

・Webサイトは特徴を直接顧客に伝える場となります。

・ベテランの頭の中に入っている情報を言語化し、社内で共有する仕組みを通じてサービス力を向上させることができます。

​Sing2023年10月号

ITを事例からひも解く

「顧客の課題を先取りし、新規事業に挑戦する」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 事業分野は技術の進歩や市場環境によって縮小の方向に進む場合もあります。新しい事業への挑戦が求められますが、まったく土地勘がない分野よりも、これまで取引があったお客様や業界のニーズを汲み取り、新しいサービスや製品を開発するのも一つの方法です。福岡県北九州市のリョーワは、製造業の課題を解決するITサービスの開発に取り組んでいます。なぜ、思い切った挑戦ができたのでしょうか。

 IT経営マガジン「COMPASS」2022年夏号から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

 

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<会社概要>

株式会社リョーワ

[R-Vision 開発センター]:

福岡県北九州市小倉北区浅野1丁目1-1ビエラ小倉1F

設立:1968年

従業員数:25人

事業内容:油圧装置関連事業、外観検査システム設計・製造・販売等

URL:https://e-ryowa.com/

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 油圧装置の工事・メンテナンスのプロである福岡県北九州市のリョーワから取材場所として案内されたのは、「製造業だから工場」ではなく、JR小倉駅直結の5G対応・コワーキングスペース内オフィスだった。来訪者を招きやすく、また、他の企業とも交流ができる新しい働き方を実現できる施設である。

 2022年5月、同社は、中小企業が活用しやすいクラウド型のAI外観検査システム「CLAVIアドヴァンス」のサービス提供を開始した。中小製造業で課題となっている不良品検出、部材のカウントなどの作業をAIが学習し、代行するためのシステムである。IT領域に事業を広げたのはなぜなのだろうか。

 代表取締役の田中裕弓氏は、次のように説明する。

 「油圧事業がなくなることはないですが、電気に置き換わり縮小するのは自明です。当社では、新事業への挑戦を心がけており、製造業の現場に求められる画像処理、さらにAIに焦点を当てたのが当サービスです」

 田中社長は「ピンと来たことは試す」をモットーにしており、挑戦する風土を大切にする。そして、「経営課題の解決には、人のマインドイノベーションが必要」と言う。働く人自身が革新的な思考を持ち、行動に移せることが会社を強くするのである。

 今回の新事業では、顧客は同業者であり業務の事情を熟知しているので「あったら便利なサービス」を発想することができる。ただ、IT、とくにAIとなればこれまでの事業の延長にはなく、開発にあたってITに強い人材が必要だ。この点はどのように進めたのか。

 同社の場合は、電気、画像処理、インターネットと先端技術分野を意識的に経験していた津田貴史氏を採用できたこと、産学連携、さらにIT人材を広く海外にも求め、タイで開発者を獲得できたことが大きかった。

 

 CLAVIのサービスコンセプトについて、事業部長である津田氏は次のように説明する。

 「CLAVIは中小企業が無理なくAIを使える月額利用料金設定や使い勝手を目指しました。クラウド型で、スマートフォンやスマートグラスでも動きます。既存の設備を使って、不良品の検出などに簡単にAIを導入できるのが特徴です」

 操作性には特に注力しており、スマートフォンで手軽にトライできるので、「AIを使うと何ができるのか」を体感しやすい。AIが学習を終え、現場に導入する際は、エッジPC(通信せずに使用できるPC)とカメラ等を設置すれば、ネット接続なしで使用できる。

 「検査やカウントなど人の眼に当たる部分の仕事を代替させられます。新入社員が熟練工の技を学ぶときにも使えるでしょう」と田中社長は指摘する。

 経営者のイノベーションマインド、広く連携して吸収する姿勢、多様な分野を統合して利用者のニーズを形にする人材の活躍が、中小企業による中小企業のためのAIサービスを生み出した。既存事業の周りには、新規事業の種がたくさん隠れているに違いない。

 

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【事例からヨミトル】

・業界の将来を予測して、新規事業に取り組む余力を作りだしましょう。

・既存顧客が抱える課題を解決するサービスの開発も新規事業として有力です。

・ユーザーの事情をよく知る立場を活かし、ITサービスの提供に踏み込むことも可能です。その場合、信頼できるIT人材の獲得がカギになるでしょう。

​Sing2023年9月号

ITを事例からひも解く

「予約受付する部屋数を絞って利益改善 決断の背景に『データ』あり」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 「給与を上げて社員の待遇をよくしたい」――多くの経営者の願いですが、生産性を高め、適正な利益を確保することが前提となります。

 富山県の鉄筋工事業・旭鉄筋では、1つずつ異なる工事が赤字か黒字かを把握するため、原価管理に取り組んできました。コツコツと継続してきた結果、経営基盤を強化することができ、現在は業界全体の待遇改善を目指しています。

 「COMPASS ONLINE」から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

 

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<会社概要>

旭鉄筋株式会社

富山県富山市水橋開発277-11 富山三郷企業団地内

他に上市工場がある

設立:1991年(創業1969年)

従業員数:20人

事業内容:鉄筋工事業

URL:https://www.asahi-tekkin.com/

 

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 採用情報に書かれている給与は「月給」制。富山県で鉄筋工事業を営む旭鉄筋は、地域の同業者がまだまだ‘日給’で人材募集をしているなか、月給制、さらに週休二日制を導入している。

 「受注に波がある建設業では、固定給の場合、仕事が少ないときは経営が苦しくなるリスクもあり、なかなか踏み切れていません。しかし、人手不足が進み他の業界と人材の取り合いになれば、‘日給’というだけで、求職者からはじかれてしまうでしょう。業界を挙げての課題なのです」

 代表取締役社長の井本秀治氏は、「入りたくなる業界」となるべく、待遇面を整えると同時に学生へのPRコンテンツ、動画など情報発信にも力を入れている。                                                                                                                     

 同社は15年ほど前に、工事の原価を把握するITシステムを導入。日報にその日の業務を記録することからスタートし、独自のシステムを構築した。鉄筋そのものは発注者であるゼネコン(総合建設会社)から支給されるため、鉄筋の加工や工事の人件費、移動の経費などを原価として計算する。「1年が終わるまで利益状況がよくわからない」状態を脱出し、赤字受注の回避を目指した。

 こうしたシステムは、スタッフ全員が作業時間等を毎日正確に入力することが前提となる。

 「今では現場から戻ったら記録するのが当たり前になりましたが、慣れるまでは時間がかかりました。記録を忘れた人がいるとデータが不正確になりますから。途中、諦めそうになったこともあります。顧問をお願いしているITコーディネータの方が、都度、『何を実現するために原価管理システムを導入したのか』を確認してくれたのが大きかった」と井本社長は振り返る。

 原価管理を徹底してからは、データをもとに価格交渉を行うこともある。「ただお願いするよりも、数字で詰めていくと納得していただけます」という。

 社員に毎月安定的に給与を支払うには、どんぶり勘定ではなく、適正な利益を確保していくことが欠かせない。「目的」に向かってシステムを使い続けてきたことが、旭鉄筋の力になっている。

 さらに、工事の見積書を出すための積算(工事に関わる材料や人などの費用を積み上げること)作業の効率化を図るため、アーキテック社の「拾之助」を導入した。鉄筋工事の図面情報に基づいて寸法等を入力すると、積算に必要な部材を拾い出して重量などを自動積算するソフトウェアだ。導入後は、見積書の作成時間を以前の5分の1に短縮できた。

 「高度経済成長期は、職人の給与は高かったのです。建設業は今の1.5倍、2倍の給与を出せるような業界でありたい。そこを目指しています」

 井本社長は、さらなる成長と業界全体の待遇改善を目指し、鉄筋を加工する工場の拡張なども検討しながら、コツコツと「攻めの経営」を推進している。

 

 

 

 

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【事例からヨミトル】

・受注一つひとつに対して、利益を把握するためにITシステムを活用し、原価管理をしておきましょう。次の見積作成や交渉に役立ちます。

・システム導入のときはもちろん、運用を成功に導くためにも、ITコーディネータなど専門家の活用は有効です。

・魅力ある職場・職種として選ばれるために、取り組むべき優先課題を見いだしましょう。

​Sing2023年8月号

ITを事例からひも解く

「2倍の給与を出せる業界に!
 原価管理の積み重ねで起きた変化」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 「給与を上げて社員の待遇をよくしたい」――多くの経営者の願いですが、生産性を高め、適正な利益を確保することが前提となります。

 富山県の鉄筋工事業・旭鉄筋では、1つずつ異なる工事が赤字か黒字かを把握するため、原価管理に取り組んできました。コツコツと継続してきた結果、経営基盤を強化することができ、現在は業界全体の待遇改善を目指しています。

 「COMPASS ONLINE」から転載します(記載内容は掲載時点のものです)。

 

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<会社概要>

旭鉄筋株式会社

富山県富山市水橋開発277-11 富山三郷企業団地内

他に上市工場がある

設立:1991年(創業1969年)

従業員数:20人

事業内容:鉄筋工事業

URL:https://www.asahi-tekkin.com/

 

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 採用情報に書かれている給与は「月給」制。富山県で鉄筋工事業を営む旭鉄筋は、地域の同業者がまだまだ‘日給’で人材募集をしているなか、月給制、さらに週休二日制を導入している。

 「受注に波がある建設業では、固定給の場合、仕事が少ないときは経営が苦しくなるリスクもあり、なかなか踏み切れていません。しかし、人手不足が進み他の業界と人材の取り合いになれば、‘日給’というだけで、求職者からはじかれてしまうでしょう。業界を挙げての課題なのです」

 代表取締役社長の井本秀治氏は、「入りたくなる業界」となるべく、待遇面を整えると同時に学生へのPRコンテンツ、動画など情報発信にも力を入れている。                                                                                                                     

 同社は15年ほど前に、工事の原価を把握するITシステムを導入。日報にその日の業務を記録することからスタートし、独自のシステムを構築した。鉄筋そのものは発注者であるゼネコン(総合建設会社)から支給されるため、鉄筋の加工や工事の人件費、移動の経費などを原価として計算する。「1年が終わるまで利益状況がよくわからない」状態を脱出し、赤字受注の回避を目指した。

 こうしたシステムは、スタッフ全員が作業時間等を毎日正確に入力することが前提となる。

 「今では現場から戻ったら記録するのが当たり前になりましたが、慣れるまでは時間がかかりました。記録を忘れた人がいるとデータが不正確になりますから。途中、諦めそうになったこともあります。顧問をお願いしているITコーディネータの方が、都度、『何を実現するために原価管理システムを導入したのか』を確認してくれたのが大きかった」と井本社長は振り返る。

 原価管理を徹底してからは、データをもとに価格交渉を行うこともある。「ただお願いするよりも、数字で詰めていくと納得していただけます」という。

 社員に毎月安定的に給与を支払うには、どんぶり勘定ではなく、適正な利益を確保していくことが欠かせない。「目的」に向かってシステムを使い続けてきたことが、旭鉄筋の力になっている。

 さらに、工事の見積書を出すための積算(工事に関わる材料や人などの費用を積み上げること)作業の効率化を図るため、アーキテック社の「拾之助」を導入した。鉄筋工事の図面情報に基づいて寸法等を入力すると、積算に必要な部材を拾い出して重量などを自動積算するソフトウェアだ。導入後は、見積書の作成時間を以前の5分の1に短縮できた。

 「高度経済成長期は、職人の給与は高かったのです。建設業は今の1.5倍、2倍の給与を出せるような業界でありたい。そこを目指しています」

 井本社長は、さらなる成長と業界全体の待遇改善を目指し、鉄筋を加工する工場の拡張なども検討しながら、コツコツと「攻めの経営」を推進している。

 

 

 

 

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【事例からヨミトル】

・受注一つひとつに対して、利益を把握するためにITシステムを活用し、原価管理をしておきましょう。次の見積作成や交渉に役立ちます。

・システム導入のときはもちろん、運用を成功に導くためにも、ITコーディネータなど専門家の活用は有効です。

・魅力ある職場・職種として選ばれるために、取り組むべき優先課題を見いだしましょう。

​Sing2023年7月号

ITを事例からひも解く

「コインランドリーのDXを支えた製造業の経営姿勢」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 総務・経理部門では、締めから支払い時期に業務が集中します。負荷を抑えて効率化するために、ITはどのように活用できるでしょうか。多様な勤務体制を取る医療法人の取り組みを「COMPASS ONLINE」から転載します(記載内容は2022年夏時点のものです)。

 

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<会社概要>

医療法人社団 桜仁会 さくらニューロクリニック

富山県富山市下新本町3-5

設立:1973年

従業員数:約50人

事業内容:医療(一般内科/脳神経内科・外科/心療内科/精神科/頭痛外来)、訪問看護サービス、精神科デイケア

URL:https://www.toyamasakura.com/

――――――――――――――

 

 「頭が痛い」といっても原因は一つではなく、どこの診療科で見てもらえばよいか悩ましいものだ。富山県富山市の医療法人社団桜仁会は、「脳とこころの総合医療」をかかげ、頭痛外来など5科からなる内科・脳神経クリニック、訪問看護サービス、グループホーム精神科デイケアと事業を展開し、地域の医療を支えている。

 約50人のスタッフは、事業の特性から職種は多様で、業務内容に対応したシフト勤務や希望に応じた1日6時間などの時短勤務もある。給与計算にはきめ細かいルール設定を行っていた。

 それゆえ、毎月の給与支払い業務には多くの時間を要し、複雑な処理が多いと仕事が属人化しやすいという課題があった。ITツールの導入費用の一部を国が補助するIT導入補助金が実施されていたこともあり、2021年に勤怠・給与分野を中心としたバックオフィスのデジタル化に踏み出した。

 同県内でITツールや機器の販売・サポートサービスを提供する山辺事務機(本社・高岡市)のアドバイスを受けながら、オービックビジネスコンサルタントの「奉行勤怠管理クラウド」「シフト管理for奉行」「給与奉行クラウド」「給与明細電子化クラウド」を導入した。

 シフト決定から勤怠の記録(ICカードを利用)、休暇申請や承認などをシステム上で行い、勤怠のデータは入力作業なしで給与ソフトに連動(システム間でデータを渡す)できるようになった。毎月の給与明細書は専用アプリを通じてペーパーレスで発行している。

 業務の進め方を変える際、現場は不安や戸惑いを感じることも多い。プロジェクト推進にあたり留意した点について、総務担当の横田里美氏は次のように振り返る。

 「特に給与はお金のことですし、少しでも不信感がないようにと心がけました。『なんでも聞いてください』と声がけし、スマホの操作をはじめ、電子化した給与明細のデータ保存や印刷方法などを一つひとつ説明していきました」

 同社団のきめ細かい給与計算ルールをシステムに反映させる際は、山辺事務機のサポートを受けることで、滞りなく進められたという。

 勤怠管理、給与計算業務の効率化により、総務では捻出できた時間を現場のサポートや次の取り組みに使うことができ、組織全体の最適化が図られている。

 

 

 

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【事例からヨミトル】

・バックヤードの業務をデジタル化し、効率を上げていきましょう。

・ITの導入から運用まで、利用者の立場に立ってサポートできるIT企業を選ぶと安心です。

・勤怠―給与―会計などITツール間でデータを連携すると、導入効果をさらに高めることができます。

​Sing2023年6月号

ITを事例からひも解く

「給与計算時期の業務負荷、どう解消する?」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例をもとに、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。

 総務・経理部門では、締めから支払い時期に業務が集中します。負荷を抑えて効率化するために、ITはどのように活用できるでしょうか。多様な勤務体制を取る医療法人の取り組みを「COMPASS ONLINE」から転載します(記載内容は2022年夏時点のものです)。

 

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<会社概要>

医療法人社団 桜仁会 さくらニューロクリニック

富山県富山市下新本町3-5

設立:1973年

従業員数:約50人

事業内容:医療(一般内科/脳神経内科・外科/心療内科/精神科/頭痛外来)、訪問看護サービス、精神科デイケア

URL:https://www.toyamasakura.com/

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 「頭が痛い」といっても原因は一つではなく、どこの診療科で見てもらえばよいか悩ましいものだ。富山県富山市の医療法人社団桜仁会は、「脳とこころの総合医療」をかかげ、頭痛外来など5科からなる内科・脳神経クリニック、訪問看護サービス、グループホーム精神科デイケアと事業を展開し、地域の医療を支えている。

 約50人のスタッフは、事業の特性から職種は多様で、業務内容に対応したシフト勤務や希望に応じた1日6時間などの時短勤務もある。給与計算にはきめ細かいルール設定を行っていた。

 それゆえ、毎月の給与支払い業務には多くの時間を要し、複雑な処理が多いと仕事が属人化しやすいという課題があった。ITツールの導入費用の一部を国が補助するIT導入補助金が実施されていたこともあり、2021年に勤怠・給与分野を中心としたバックオフィスのデジタル化に踏み出した。

 同県内でITツールや機器の販売・サポートサービスを提供する山辺事務機(本社・高岡市)のアドバイスを受けながら、オービックビジネスコンサルタントの「奉行勤怠管理クラウド」「シフト管理for奉行」「給与奉行クラウド」「給与明細電子化クラウド」を導入した。

 シフト決定から勤怠の記録(ICカードを利用)、休暇申請や承認などをシステム上で行い、勤怠のデータは入力作業なしで給与ソフトに連動(システム間でデータを渡す)できるようになった。毎月の給与明細書は専用アプリを通じてペーパーレスで発行している。

 業務の進め方を変える際、現場は不安や戸惑いを感じることも多い。プロジェクト推進にあたり留意した点について、総務担当の横田里美氏は次のように振り返る。

 「特に給与はお金のことですし、少しでも不信感がないようにと心がけました。『なんでも聞いてください』と声がけし、スマホの操作をはじめ、電子化した給与明細のデータ保存や印刷方法などを一つひとつ説明していきました」

 同社団のきめ細かい給与計算ルールをシステムに反映させる際は、山辺事務機のサポートを受けることで、滞りなく進められたという。

 勤怠管理、給与計算業務の効率化により、総務では捻出できた時間を現場のサポートや次の取り組みに使うことができ、組織全体の最適化が図られている。

 

 

 

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【事例からヨミトル】

・バックヤードの業務をデジタル化し、効率を上げていきましょう。

・ITの導入から運用まで、利用者の立場に立ってサポートできるIT企業を選ぶと安心です。

・勤怠―給与―会計などITツール間でデータを連携すると、導入効果をさらに高めることができます。

​Sing2023年5月号

ITを事例からひも解く

「ステーキ&ハンバーグの人気店が、コロナ禍に挑戦したこと」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例を基に、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。 

 

 コロナ禍のように不測の事態が発生した際、新しい取り組みを実現する手段として、選択肢の一つとなるのがIT活用です。前例がないことだからこそ、実行して分かったことに基づき、さらに変えていく力がよりよい結果を生みます。

 2020年春からの一定期間、観光客の減少に見舞われた沖縄県石垣焼窯元の対応について、紹介します。

 「COMPASS」2022年春号から転載(記載内容は掲載時点のもの)

 

 

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<会社概要>

合同会社石垣焼窯元

沖縄県石垣市名蔵1356-71

設立:2007年(創業は1999年)

従業員数:5人

URL:https://www.ishigaki-yaki.com/

――――――――――――――

 

 2022年1月、沖縄県の石垣島に観光客の姿はまばらだった。年明けすぐ、県内に「新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置」が適用され、休業する飲食店や棟の半分は営業を止めるホテルも……。

 海外からも高い評価を得ている、鉱石とガラスの融合で石垣島の海の色「石垣ブルー」を表現した焼物「石垣焼」を製造・販売する石垣焼窯元も、コロナ禍の2年間、個人客の来店はあったものの、ツアーでの訪問が減る事態に。

 「お客さまがいらっしゃらないから……と、何もしないでいたら経営が難しくなります。これまで実施していなかったネットショップや、購入型クラウドファンディングサイト『Makuake(マクアケ)』に挑戦しました」

 石垣焼窯元の工藤晴美氏は、自社の対応をこのように話す。

 20年11月に実施した「Makuake」の第一弾では、初日2日間で全体の7割を占める数字を出し、1週間で目標額を達成。400人を超えたサポーターからは、感想やメッセージが多数寄せられた。

 1品ずつ色の出方や模様が異なるので、本来なら手に取って選んでほしい商品である。これまでの自社Webサイトは情報提供を主眼とし、ネットショップの開設は控えていたという。コロナ禍での初挑戦だった。リアルに感じてもらえるよう、撮影角度やライティングに工夫をしたり、使用イメージが分かるよう料理を盛りつけた写真を撮ったりして工夫をした。動画も勉強したという。

 ところがオープンしたネットショップを22年2月にリニューアル。なんとも早い改良である。理由は、ネット購入者の7割がスマートフォンからだったため、最新のECサイトを調べ、スマートフォンで使いやすい「Shopify(ショッピファイ)」に切り替えることにしたからだ。

 「やってみて分かることも多いので、少しずつ動かしながら変えるようにしています。全部出来ているわけではありませんが、『こうしたいな』『これをやってみたいな』と常に考えるよう心掛けています」と工藤氏。変化を前提とした取り組み姿勢や、PDCAの大切さが伝わってくる。

 クラウドファンディングやネット販売において、リピーターのありがたさを強く感じたという。手厚い対応の基盤となり、メール配信も行える顧客管理システムがすでに導入されていたことは、大きな力になった。

 「会社を維持してこられたのは、お客さまのおかげです。多数の励ましもいただきました。リピーターの方にもずっと愛していただけるように、ワクワクする新しい作品もつくっていきます」

 工藤氏は心からの感謝をこう表現した。

 

 

 

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【事例からヨミトル】

・急激な環境変化が起き新しい取り組みを考える際、ITを活用できる場面が多くあります。

・新しい取り組みを実行した後は、顧客の反応やデータを見て、次の策を考えましょう。

・「一度つくったものだから……」とかたくなにならず、「よりよく変えていく」姿勢を持ちましょう。

​Sing2023年4月号

ITを事例からひも解く

「考えて実行し改良する力がITを活かす」

IT経営マガジン

「COMPASS」

編集長

石原 由美子 

 本連載では、IT経営マガジン「COMPASS」に掲載した全国のIT活用事例を基に、中小企業の経営において、ITがどのように役立つかを解説していきます。 

 

 コロナ禍のように不測の事態が発生した際、新しい取り組みを実現する手段として、選択肢の一つとなるのがIT活用です。前例がないことだからこそ、実行して分かったことに基づき、さらに変えていく力がよりよい結果を生みます。

 2020年春からの一定期間、観光客の減少に見舞われた沖縄県石垣焼窯元の対応について、紹介します。

 「COMPASS」2022年春号から転載(記載内容は掲載時点のもの)

 

 

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<会社概要>

合同会社石垣焼窯元

沖縄県石垣市名蔵1356-71

設立:2007年(創業は1999年)

従業員数:5人

URL:https://www.ishigaki-yaki.com/

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 2022年1月、沖縄県の石垣島に観光客の姿はまばらだった。年明けすぐ、県内に「新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置」が適用され、休業する飲食店や棟の半分は営業を止めるホテルも……。

 海外からも高い評価を得ている、鉱石とガラスの融合で石垣島の海の色「石垣ブルー」を表現した焼物「石垣焼」を製造・販売する石垣焼窯元も、コロナ禍の2年間、個人客の来店はあったものの、ツアーでの訪問が減る事態に。

 「お客さまがいらっしゃらないから……と、何もしないでいたら経営が難しくなります。これまで実施していなかったネットショップや、購入型クラウドファンディングサイト『Makuake(マクアケ)』に挑戦しました」

 石垣焼窯元の工藤晴美氏は、自社の対応をこのように話す。

 20年11月に実施した「Makuake」の第一弾では、初日2日間で全体の7割を占める数字を出し、1週間で目標額を達成。400人を超えたサポーターからは、感想やメッセージが多数寄せられた。

 1品ずつ色の出方や模様が異なるので、本来なら手に取って選んでほしい商品である。これまでの自社Webサイトは情報提供を主眼とし、ネットショップの開設は控えていたという。コロナ禍での初挑戦だった。リアルに感じてもらえるよう、撮影角度やライティングに工夫をしたり、使用イメージが分かるよう料理を盛りつけた写真を撮ったりして工夫をした。動画も勉強したという。

 ところがオープンしたネットショップを22年2月にリニューアル。なんとも早い改良である。理由は、ネット購入者の7割がスマートフォンからだったため、最新のECサイトを調べ、スマートフォンで使いやすい「Shopify(ショッピファイ)」に切り替えることにしたからだ。

 「やってみて分かることも多いので、少しずつ動かしながら変えるようにしています。全部出来ているわけではありませんが、『こうしたいな』『これをやってみたいな』と常に考えるよう心掛けています」と工藤氏。変化を前提とした取り組み姿勢や、PDCAの大切さが伝わってくる。

 クラウドファンディングやネット販売において、リピーターのありがたさを強く感じたという。手厚い対応の基盤となり、メール配信も行える顧客管理システムがすでに導入されていたことは、大きな力になった。

 「会社を維持してこられたのは、お客さまのおかげです。多数の励ましもいただきました。リピーターの方にもずっと愛していただけるように、ワクワクする新しい作品もつくっていきます」

 工藤氏は心からの感謝をこう表現した。

 

 

 

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【事例からヨミトル】

・急激な環境変化が起き新しい取り組みを考える際、ITを活用できる場面が多くあります。

・新しい取り組みを実行した後は、顧客の反応やデータを見て、次の策を考えましょう。

・「一度つくったものだから……」とかたくなにならず、「よりよく変えていく」姿勢を持ちましょう。

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